信州松本ぺんぎん堂

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信州に月の都あり

こんばんは、ぺんぎん茶々丸です。

わたくし先日、月についての記事を書いたときに「松本城が信州一の月の名所だと勝手に思っている」と書き、信州の月の名所と言えば千曲市姨捨の田毎の月は「水をたたえた小さな水田のひとつひとつに月が映り込む様が幻想的なので、そのお話はまた5月の田植えシーズンの前にでもすることとしましょうか。」などと書きました。

shinsyu-matsumoto-pengin-dou.hatenablog.com

 

しかし!です。

先日、「信毎web」で「水はなくても『田毎の月』 千曲・姨捨の棚田をLEDでライトアップ 来年3月まで」という記事を目にしました。なんとなんと、この月の名所は冬でも田毎の月を楽しもうと趣向を凝らしているんですね。棚田のあぜ道に3800個のLED照明を設置し、田んぼの真ん中には月に見立てた黄色や白の照明を設けたのだそうです。凜とした寒さのなかで照明の美しさが引き立つことでしょう。

www.shinmai.co.jp

これはもう姨捨の棚田を取り上げないわけにはいかないです!

ということで今回は月の名所・姨捨の棚田について書いてまいります!

 

 

姨捨の棚田とは

姨捨棚田の場所は?

姨捨の棚田があるのは長野県の千曲市です。

冠着山(1252m)や三峰山(1131m)などを中心とする聖山高原。その善光寺平側の斜面の標高460m〜560mの範囲に棚田が広がっています。面積はおよそ25ha。

この棚田は元禄10年(1697)に上流の大池から水を引くために堰を作ったのに伴って作られたと伝えられています。いまから300年以上も前なんですね。

安永6年(1777)の大池普請までにはおよそ42haが開田され、明治10年には約85haまで増加してほぼ現在の棚田築が完成したと考えられています。

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姨捨の棚田

 

古からの月の名所・姨捨

姨捨の一帯は平安時代頃から月の名所として愛され、延喜5年(905)〜延喜12年(912)頃に成立した「古今和歌集」に収蔵されている

「わが心なぐさめかねつさらしなや姨捨山にてる月を見て(私は自分の心を慰めようと思っても慰めきれない。この姨捨山の美しく照る月を見ていると)」

を最古として、「更級日記」や「新古今和歌集」でも月の歌が詠まれているとのこと。

また、あの豊臣秀吉

「さらしなや雄島の月もよそならんただ伏見江の秋の夕暮れ」

伏見城で見る月のライバルに姨捨の名をあげています。

また松尾場所も貞享5年8月、姨捨の月を見ようとやって来て

「俤や姥ひとりなく月の友(おもかげや うばひとりなく つきのとも:(姨捨に来てみると)その昔この月を眺めて一人泣いていたおばあさんの姿が浮かんできて物憂い気持ちだが今宵はその面影を偲んで月を友としよう)」

と詠んでいます。

また歌川広重は浮世絵に姨捨の棚田の絶景を残しています。

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歌川広重「六十余州名所図会」信濃 更級田毎月鏡台山

ただし、Wikipediaを見ると「眼下の景観すべてが甲越両軍の12年にわたり5度戦った川中島の戦いの戦場であった」と書かれており、凄惨な歴史も目撃した場所でもあったようです。

 

毎の月とは

田毎の月は長楽寺の持田である四十八枚田に映る名月のことです。

棚田の1枚1枚のそれぞれ全部にお月さまが映っているというのが「田毎の月」の意味になります。夜空にはひとつの満月、棚田には48個の満月、という具合です。

四十八枚田は1反歩(300坪、990平米)を48枚に分けた棚田で、西行阿弥陀四十八願にちなんで名づけたと伝えられています。実際の棚田の写真を見ると48枚どころかもっともっとありそうに見えますけどね。

姨捨の「田毎の月」が文献の上で初めて出てくるのは戦国時代に越後の上杉謙信川中島の合戦の戦勝を祈願した願文だとのこと。またそののちの天正6年(1578)に作られたとされる狂言本「木賊(とくさ)」にも信濃国の名所のひとつとして登場するそうです。

江戸時代になると棚田開発が大きく発展するのに伴って姨捨山から見た月だけでなく田んぼの1枚1枚に映る月が俳句や紀行文の題材として注目されるようになったとか。山の中にあるにもかかわらず平安時代からここには多くの人が訪れ月を愛でていたのですね。「姨捨山」という昔話があるので姨捨自体は昔からあるものだと思ってはいましたが、それは年老いた母を捨てなければならないような悲しいお話の舞台だったという印象で、まさか平安時代から人々が月に魅せられる場所だったとは認識していませんでした。

また、「姨捨(田毎の月)」は1999年5月10日、国の名勝に指定され、日本で初めて文化財に指定された農耕地でもあります。

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実際の田毎の月 日本遺産 月の都千曲さまサイトより拝借

 

月の都 千曲

そして信毎webの記事をきっかけに姨捨の棚田について調べていくと、なんとなんとなんとなんと!「月の都 千曲」令和2年度文化庁日本遺産に認定されていたことがわかったのです!

わたくし、勉強不足でこんな素敵な情報を知りませんでした。

「月の都」——なんて美しい言葉なのでしょう。

tsukino-miyako.jp

 

日本遺産とは文化庁が我が国の文化財や伝統文化を通じた地域の活性化を図るために認定するもので、その歴史的経緯や、地域の風土に根ざした世代を超えて受け継がれる伝承や風習などのを踏まえたストーリーのもとに有形・無形の文化財をパッケージ化したものです。

次に引用するのが「月の都 千曲」のストーリーの概要です。

日本遺産「月の都 千曲」

姨捨の棚田がつくる摩訶不思議な月景色「田毎の月」〜

 

長野県千曲市は東西から迫る山の間を

南北に千曲川が流れる狭長な地形に位置し

古来、人びとが行き交ってきた交通の要衝の地です

 

千曲川の左岸にひときわ高くそびえる

冠着山(古くは「姨捨山」と呼ばれた)の麓は

「更級の姨捨山に照る月」「田毎の月」と呼ばれ

古くから月見の名所として知られてきました

 

ストーリーには下の図に示すように

  1. 月見にまつわる『古人の「遊び心」』
  2. 棄老物語や棚田の耕作などの『先人の「暮らしの知恵」』
  3. 伝統を継承しつつ『今に生きる「月見の地」』

の3つの柱のもとに「月の都 千曲」を紹介していきます

 

(日本遺産 月の都 千曲より抜粋)

 

3の「伝統を継承しつつ『今に生きる「月見の地」』では、伝統的な月見の場所として四十八枚田の持ち主・長楽寺が、新たな月見の場所としては標高547mに位置する姨捨駅、長野自動車道の姨捨サービスエリアが上げられています。「月見の駅」なんてロマンチックですね。

実は私は姨捨には降り立ったことはなく、子どもの頃に電車で姨捨駅のスイッチバック方式を何度か体験しただけなんです。スイッチバックとはSLの時代に鉄道で急勾配を上るために作られた仕組みで、力が弱いSLが急勾配の途中で止まってしまうと再び動き出すのが難しかったため急勾配の途中から線路を分けて平らな場所に駅を作ったものです。姨捨駅も急勾配の途中に作った平らな場所に建てられた駅なので、駅に入線するときには一旦バックする必用がありました。しかし、このただ単にバックして駅に入る動きが子ども心にはとても楽しく、ワクワクを感じたものです。そんなワクワクの場所が月の名所だなんてワクワク倍増です。

 

また、「月の都 千曲」と「月の都さらしな」というふたつの呼び名がありますが、「月の都さらしな」は更級地域が古代から「月の都」と歌に詠まれて称賛されてきたことに由来する歴史的な名称で、「月の都 千曲」は千曲市の魅力を広くアピールするため日本遺産として認定されたストーリーの名称なのだそうです。「さらしな」という響きも素敵ですけどね。しかし、古人も憧れたさらしなの里の「更級郡」は地名としてはなくなってしまったのです。けれども「月の都」が文化庁から認定されたのは、もともと「さらなしなの里」だったこの一帯に冠着山や鏡台山、姨捨の棚田、千曲川といった月を美しく魅せる舞台が揃っていることと、古代から都とつながっている道があり、人々の心を魅了してきた歴史があったことが大きかったからのようです。

私も来年は姨捨の田毎の月を見てみたいと思います。

 

そして姨捨といえば……

実を言うと、私の中で「姨捨」という単語を聞いて真っ先に思い浮かぶのはオバステ正宗なのです。「オバステ正宗」は千曲市純米酒蔵元長野銘醸の日本酒です。長野銘醸さんは元禄2年(1689)創業。江戸時代後期から愛されているこの蔵元で最も親しまれている純米酒だそうです。松本に住んでいたときに「オバステ正宗!!」というCMをよく目にしたのでこれが私の脳にインプットされているんです。

オバステ正宗は2007年から最上級酒から普段飲みのお酒まで全て、二日酔いや悪酔いの原因ともいわれる醸造アルコール無添加純米酒にしたそうです。健康的でいいですね!使用しているお米は長野県産米100%というところも素敵です(※商品によって長野県産米以外の原材料もあり)

オバステ正宗のほかに姨捨正宗というブランドもあって、どちらかが高級なんでしょうかね?

また、「棚田」というブランドは姨捨棚田の米と水だけで仕込んだ唯一無二のお酒だそうです。私はお酒はあまり飲まないのですが、かなり興味が出て来ました。私は地元に根ざした商品やサービスにすごく心を惹かれてしまうのです。

サイダーで割っておいしいカクテル用日本酒「カメレオン」なんて11月24日(今日だ!!なんてすごい偶然!!!!)新発売の商品もあって、これも飲んでみたくなりました。なんか偶然すぎてこれ買わないわけにはいかない気がしてきた……。

www.obasute.co.jp

 

ということで、本日も最後までお読みいただきありがとうございました!